日日の言葉

   ALL IN LOVE IS FAIR                  
All is fair in love
Love's a crazy game
Two people vow to stay
In love as  one they say
But all is changed with  time
The future none can  see
The road you leave behind
Ahead lies mystery
But all is fair in love
I had to go away
A writer takes his pen
To write the word again
That  all in love is fair
 
All of fate's chance
It's either good or bad
I tossed my coin to say
In love with me you'd stay
But all in war is so cold
You either win or lose
When all is put away
The losing side I'll play
But all is fair in love
I should have never left your side
A writer takes his pen
To writes the words again
That all is fair in love
 
                 Stevie Wander  「Innervisions」
 
 
 
 

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日日の言葉

 いまさらというもの言いながら、平安四百年を省みるならば、
最初の約百年、日本語で書かれた書物が一冊もない。喪われ
たのではなく、産み出されていない。これは一時代を俯瞰する
に際し、異様な眺めではないか。ひらがなが発達しつつある時
であるはずなのに、ふしぎだ。一王朝の最初の四分の一が、現
地語の、と言うか、〝民族語で〟書かれた書物を一冊も一巻も
産出していないとは、どういうことだろうか。
 九世紀の終りになって、満を持したかのように、十分に発達
した、かな表記の文化を背景にして、『古今集』編纂の機運が
出てくる前後を目安とし、中将後息所歌合から亭子院歌合
(延喜十三年〈九一三〉)の新作辺りまで、何だか急速に動き
出した感がある。『新撰万葉集』の編集、寛平御時后宮歌合
(后宮は班子女王でなく、温子ではないか)などの歌合、『句
題和歌』(大江千里集)が連動していよう。遍昭などの著名な
歌人たちの「家集」を作るという促しも、この動きから出てこよう。
編者たちの「家集」の制作が命ぜられ、集められる。そのいきおい
のなかから、『竹取物語』などの書かれる物語類の生産態勢、
『伊勢物語』類の編纂が、と動き出す。和歌含みで、物語文化が
急転直下だ。そのまた百年後に『源氏物語』『枕草子』そして
『栄花物語』を産み出すまでに、平安文学は以後、のぼり詰め
ゆく。
      藤井貞和『日本文学源流史』(青土社)
 

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日日の言葉

     夢
「そろそろぼくのかみさんを返してください」
黒眼鏡の男に言われた夫が
驚いて雑誌を広げていたわたしの顔を見る
「そうなの」
わたしがうなずくので
立ち上がらねばならない
膝がうずく
いつものように青い頭陀袋一つもって
欅の寺の石段を下り 未練たらしく振り返りながら
妻だった女から去ってゆく
という夢を見たそうだが
そうだよね まだお互い半信半疑
こっちが遠い夢かもしれない
 
               高橋順子『時の雨』(青土社)
 
 

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日日の言葉

         インド行  
 
   あなたが高円寺に住んでいたころ
   月に一度ばかり ふたりで<インド>へ行くのだったー
   日がないちにち ミルクティーすすって本を読み
   洗濯も料理もせず 電話にも出ず
   小さな部屋に 言わばしけこんで
   どこへも行かない。
   そんなのを<インド>と呼ぶのは
   インド人に失礼かもしれない。
 
   あなたが池袋に引っ越してきてからは
   <インド>はずいぶん近くなった。
   他の国を訪ねてみようか と
   ちらっと思ったこともなくはないけれど
   ここは奥が深くて 行くたびに
   好きになる。
 
        アーサー・ビナード『釣り上げては』(思潮社)
 
 
 

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日日の言葉

     へんな人
 
  土手の上を歩いていると
  「地相が代わった」
  と人が言う
  風草が紫色の風を起こしているところを過ぎてしまった
 
  草の色と形をもった虫が
  左右にひとしい弧を描いて跳びはねた
  左と右のどちらの円弧についていったらいいか
  この人は長い瞑想に沈んでしまった
 
  昼と夜の界を越えるのもたいへんだった
  塩蔵の陰に隠れて
  昼間のしっぽが轍の跡をなでていくのをすっかり見ていた
  塩蔵の裏はどくだみの花の匂いがした
 
  「どくだみは好き?」
  「好きでも嫌いでもない
  どくだみ化粧水をつけているの」
 
  へんな人は自分が虫の生まれ変りのようだと思った
 
                高橋順子『貧乏な椅子』(花神社)
 
 

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日日の言葉

     アン・ヴァロニカ
 
  男と一緒にー
  その男は生物学の教授ー
  アルプスへかけおちする前
  の一週、女は故郷の家にひそかな
  離別の気持を味うので来ていた。
  昔の通りの庭でその秘密をかくして
  恋心に唇をとがらしていた。
  鬼百合の花をしゃぶってみた。
  「壁のところで子供の時
  神
  地蜂
  おやじ
  の怒りにもかかわらず
  梅の実をぬすんでたべたこともあつたわ。」
  この女にその村であつた
  村の宿屋でスグリ酒と蟹をたべながら
  紅玉のようなランボスの光の中で
  髪を細い指でかきあげながら話をした
  「肉体も草花もあたしには同じだわ」
 
                  西脇順三郎「近代の寓話」
 

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日日の言葉

             日常
 
     おはようございます
     こんにちは
     いただきます
     ごちそうさま
     ありがとう
     おやすみなさい
 
   これらは日常のことばである
   この国に大地震と大津波が来て放射能が降って
   日常が揺らいできたから
   日常をはっきり声にすることで揺らぎを抑えようとする
 
   抑えられる
 
           高橋順子『海へ』(書肆山田)
 

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日日の言葉

       親知らず
   わたしを産んだ女性の名前は知らない
   わたしが母と呼んでいるのは
   彼女ではないから
   背が高かったか 低かったか
   どのような顔をしていたか
   私のように金髪だったか
   どこから来たか
   誰と住んでいたか
   誰と愛を交わしたか
   私を産んだとき
   痛かったか 麻酔剤を頼んだか
   分娩室で一人ぼっちだったか
   手をつないだ人がいたか
   わたしを病院に譲りわたしたとき
   こちらを向いたか
   はっきりと
   わたしの顔が見えたか
     知らない
 
   だから 歯医者が
   わたしの口をのぞきこんで
   わたしの血統を初めて
   教えてくれたとき
   舌がまわらなかったのは
   麻酔剤のせいではない
   臼歯の角度から
   先祖の出身国が読める
   と 歯医者は言った
   重くなった頭を凭せかけて
   眠りに落ちていくと
   母音があふれるゲール語で
   話しかけてくれる先祖たちが
   瞼の裏に押し寄せてくる
   その真中に立つのは彼女
   彼女の不明だった輪郭が 初めて
   ぼんやりとした形を取る
   私の親知らずが
 
   抜かれた瞬間に
 
      ジェフリー・アングルズ『わたしの日付変更線』(思潮社)
 
 
 

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日日の言葉

 ビジネスマンは、自分たちが使い慣れている言語で話して
いる。このもったいぶった名詞や動詞によって、ごく普通の
出来事まで冒険的な性格を帯びてくる。こうして、重役は
インキ消しの間を、まるで騎士のようにきらびやかに着飾って
歩いている。彼を許してあげよう。元気な人は、みんな白馬に
またがりたがるものだから。問題は、ビジネスマンの用語が、
一般人の散文に用いられるかどうかである。同じ内容のことが、
努力さえすれば、それほどいかめしくない表現で表せるものだ。
ビジネスの世界で使われる多くの特殊な単語は、正確な意味
よりは、書く人の夢を表すために考案されたようだ。そのような
単語は、もちろん、全部直ちにお払い箱というわけにいかない。
言語では、どんな単語でも、健康な好奇心をもっている人に
とっては、すぐに捨てることはできない。updateは悪い語では
ない。ふさわしい場面で使えば、有用である。しかし、まかり
まちがえば、有害であって、新造語をあまり急いで使うと、
その新語が場ちがいの所に入りこんで、読者を苦しめるという
困った事態が起る。
  William Strunk Jr. &  E.B.White 『The Elements of  Style 』
                              荒竹三郎訳 (荒竹出版)
 

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日日の言葉

      池(pond)          白石かずこ
 
 帰りな といった
 今晩は おまえといたくないから帰りな
 といった
 おまえは鼻をすすって泣きながら
 帰っていった
 おれは 帰るところがない
 
 おまえが おれの心から 泣きながら
 でていった道を 何度もなすった
 おまえの涙のしみが おれの中のあっち
 こっちに ついていて
 そこが池になっていたので その池の部分
 だけいつも重くなってる心をかかえて
 その晩 おれは眠ったのだ
 
                     『今晩は荒模様』
 
 

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